ほうでもまた、それらのりっぱな心に接して自分の心を温《あたた》めるのがうれしかった。
なおも一人、女の友が、彼のところへやって来た。と言うよりむしろ、彼のほうから会いに行った。彼女は彼と知り合いになりたがってはいたが、訪問してくるだけの努力は払わなかった。二十五歳の音楽家で、音楽学校でピアノの一等賞をもらったことがあった。セシル・フルーリーという名だった。背が低くて、かなり肥満していた。濃い眉《まゆ》、濡《うる》みがちな眼つきをした大きな美しい眼、家鴨《あひる》の嘴《くちばし》のように先端がやや赤味を帯びてそり返ってる太い低い鼻、人のよさそうなやさしげな厚い唇《くちびる》、元気な頑丈《がんじょう》なふっくりしてる頤《あご》、高くはないが広い額《ひたい》。髪は首の後ろに房々とした束髪に結えてあった。丈夫な腕をしていた。手はいかにもピアノひきらしく大きくて、親指が聞き指先が角張っていた。その身体全体からは、重々しい活気と田舎者《いなかもの》めいた健康との印象を人に与えた。母といっしょに暮らしていて、たいへん母を大事にしていた。母は人のいい女で、少しも音楽に興味をもたなかったが、音楽の話
前へ
次へ
全339ページ中92ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング