色になった寂しい同じ情愛の空気に包まれていた。アルノーは精神的|銷沈《しょうちん》の時期にさしかかっていた。それは、教師の生活――けっして止《とど》まりもせず進みもせず同じ場所で回転してる車のように、前日と同じ日が毎日繰り返されてゆく勤労の生活、その生活から磨滅《まめつ》された結果であった。善良な彼は忍耐強かったにもかかわらず、落胆の危機を通っていた。世間のある種の不正な事柄を悲しんでみたり、自分の献身的努力も無駄であると思ったりした。アルノー夫人はそれを親切な言葉で元気づけていた。彼女は相変わらず心安らかであるらしかった。しかし以前より窶《やつ》れていた。クリストフは彼の前で、こんなに物のわかった細君をもってるのは仕合わせだとアルノーに言った。
「そうです、」とアルノーは言った、「かわいい妻です。何事にも心を乱しません。妻も仕合わせだし僕も仕合わせです。もし妻がこんな生活を苦にしてたら、僕はもう没落していたでしょう。」
 アルノー夫人は顔を赤めて黙っていた。それから落ち着いた声で他のことを話した。――クリストフの訪問は、いつも二人のためになっていた。二人に光明を与えていた。そして彼の
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