となしてる多数の馬鹿者どもをけしかけるのは、奇怪な恐るべき光景なのである。――クリストフは勝手に馴養《じゅんよう》されるような人間ではなかった。馬鹿な奴が自分に向かって、音楽上なすべきこととなすべからざることとを言ってきかせようとするのは、きわめて不都合なことだと思った。そして、芸術は政治よりも多くの準備を要すると、彼に諭《さと》してやった。それからまた、その新聞のおもな社員の一人がこしらえてる、社主の推薦づきのつまらない筋書きを、音楽にしてくれと申し込まれたが、彼はそれを無遠慮な言葉で断わってしまった。それは、彼とガマーシュとの関係のうちに、最初の冷たいものを投げ込んだ。
 クリストフはそんなことを意に介しなかった。彼は無名の域から脱すると、またすぐに無名の域にもどりたがっていた。「他人のうちに人を滅ぼすあの白日の光にさらされ[#「他人のうちに人を滅ぼすあの白日の光にさらされ」に傍点]」てる自分自身を、彼は見出したのだった。あまりに多くの人々が彼に干渉していた。彼はゲーテの言葉を考えてみた。

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 作家が一つの名作によって自分を認めさせるときには、公衆は第二の名
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