」
「それじゃ、彼女を救うことができないとしても、せめて自分自身を救いたまえ。そしてそれはまた、彼女を救うもっともいいやり方なのだ。自分の純潔を保ちたまえ。働きたまえ。」
オリヴィエはクリストフからそういう懸念を伝えられるに及ばなかった。彼はクリストフよりもなおいっそう、反応しやすい魂をそなえていた。といって金にたいするクリストフの奇矯《ききょう》な説を、真面目《まじめ》に受け取ったわけではない。彼自身昔は富裕であったし、富を忌みきらってはしなかったし、ジャックリーヌのきれいな顔には富がふさわしいと思っていた。けれども、自分の恋愛に利害の念が交じってると人に思われることは、堪え得られなかった。彼はふたたび大学の職を求めた。けれど当分のうちは、地方の中学のつまらぬ地位以上のものは得られそうになかった。それはジャックリーヌへの結婚の贈り物としては、あまりに見すぼらしかった。彼はそのことをおずおず彼女に話した。ジャックリーヌは初め、彼の道理を認めかねた。それはクリストフから吹き込まれた誇大な自尊心のゆえだとし、そういう自尊心を滑稽《こっけい》なものだと思った。愛するときには、愛する者の財産
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