はあえて彼女に訳を尋ねかねた。愛する者から残酷な言葉を受けはすまいかと、あまりに恐れていた。それでクリストフが遠のくのを見てぎくりとした。クリストフがそばにいてくれさえしたら、自分に落ちかかろうとしてる打撃を受けずにすみそうだった。
 ジャックリーヌはやはりオリヴィエを愛してるのだった。前よりはずっと愛していた。そのためにかえって敵意を含んでる様子になっていた。先ごろ彼女がもてあそんでいた恋愛は、あんなに呼び求めていた恋愛は、今や彼女の前にあった。それが深淵《しんえん》のように足下に開けてくるのを見て、彼女は恐れて飛びしざった。もう訳がわからなかった。みずから怪しんだ。
「なぜかしら、なぜかしら? どうしたというのだろう?」
 そこで彼女はオリヴィエをじっとながめた。オリヴィエはその眼つきに苦しめられた。彼女は考えた。
「この人はだれかしら?」
 彼女にはわからなかった。
「どうして私はこの人を愛してるのかしら?」
 彼女にはわからなかった。
「私はこの人を愛してるのかしら?」
 それもわからなかった……。彼女にはいっさいわからなかった。それでも自分が熱中してることだけはわかっていた。
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