ふいに夜会の半ばで出て行った。そしてもう姿を見せなかった。
クリストフは狼狽《ろうばい》して帰っていった。途中で彼は、その突然の変わり方を考察してみた。ほんとうのことが少しわかりかけた。家にもどってみると、オリヴィエは彼を待っていて、平気を装った様子で、夜会の消息を尋ねた。クリストフはつまらない目に会ったことを話した。そして話してゆくに従って、オリヴィエの顔が輝いてくるのを見てとった。
「疲れはどうしたんだい?」と彼は言った。「なぜ寝なかったのか。」
「なに、よくなったよ。」とオリヴィエは言った。「もうちっとも疲れてやしない。」
「そうだ、君は、」とクリストフは、ひやかすように言った、「ほんとに行かなくてよかったよ。」
彼はやさしくまた意地悪そうにオリヴィエの顔をながめ、自分の室にはいって行き、そして一人きりになると、声を押えて、涙が出るほど、笑いだした。
「あのお転婆《てんば》娘が!」と彼は考えた、「俺《おれ》を馬鹿にしやがって! 彼奴《あいつ》までが、俺を騙《だま》しやがった。二人こっそり芝居をうってたんだな。」
それ以来彼は、ジャックリーヌに関する私情をすっかり心からもぎ取
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