に萌《も》えだした感情を恐れて、態度には何一つ現わさなかった。やはりクリストフとばかり話をした。しかしそれもオリヴィエについての話だった。クリストフは友のことを話すうれしさのあまりに、ジャックリーヌがその話題を喜んでることには気づかなかった。彼はまた自分のことをも話した。彼女はそれを少しも面白いとは思わなかったが、好意上耳を貸してやった。それから様子にはそれと見せないで、オリヴィエが出て来る身の上話に話を引きもどすのだった。
 ジャックリーヌのしとやかさは、少しも疑念のない青年にとっては危険だった。クリストフはなんの考えもなく彼女に熱中した。訪問を繰り返すのがうれしかった。服装にも注意しだした。そしてよく覚えのある一つの感情がまた、そのにこやかな懶《ものう》さをあらゆる夢想に交えてきた。オリヴィエもまた思慕していた。しかも最初から思慕したのだった。そして自分が閑却されてると思って、ひそかに苦しんでいた。クリストフはジャックリーヌとの会話を楽しげに語ってきかして、彼の苦しみをさらに大きくなした。彼はジャックリーヌに好かれようとは思いもよらなかった。彼はクリストフのそばに暮らしてきたので、
前へ 次へ
全339ページ中59ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング