#「社会の安泰」に傍点]とを、彼は同種のものだと見なし、密接に関係してるものだと見なしていた。自分に害を与うるものはフランスに害を与うるものだと、確信しきっていた。私敵を撲滅するためには、断然国家をも転覆しかねなかった。それでも彼は、寛仁な行ないをなし得ないではなかった。腹がいっぱいなときに人は理想家となるごとく、彼も一種の理想家であって、父なる神のごとくに、塵《ちり》の中から憐《あわ》れな人間をときどき引き出してやるのを好んでいた。そしてそれは、無から光栄をもこしらえ出し、大臣をもこしらえ出し、意のままに国王をもこしらえたり廃したりし得るという、自分の偉大な力を示さんがためであった。彼の権能はすべてのものに及んでいた。気に入れば天才をもこしらえ出していた。
 その日彼は、クリストフを「こしらえ」たのだった。

 知らず知らずにその先鞭《せんべん》をつけたのは、オリヴィエだった。
 オリヴィエは自分のためにはなんらの奔走もしなかったし、ひどく広告をきらっていて、黒死病《ペスト》をでも避けるように新聞記者を避けていたけれど、事が自分の友に関係するときには、他に尽くすべき義務があると考えて
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