がりのなかで二人とも、無言のまま苦《にが》い涙を流した。口に手をあてて泣き声を聞かれまいとした。ついにオリヴィエは苦しくなって言った。
「ジャックリーヌ……。」
 ジャックリーヌは涙をのみ込んで言った。
「なあに?」
「こちらへ来ないかい?」
「行きますわ。」
 彼女は外出着をぬいで眼を洗いに行った。彼は燈火をつけた。やがて彼女は室にもどってきた。二人は顔を見合わせなかった。たがいに泣いたことを知っていた。そして慰め合うこともできなかった。泣いた理由がわかっていたから。

 彼らはもはや心の悶《もだ》えをたがいに隠し得ない時期となった。そしてその原因を自認したくなかったので、他の原因を捜し求めた。それは見出すに困難でなかった。彼らは地方生活の退屈さに罪を着せた。それは彼らにとって一つの慰藉《いしゃ》だった。ランジェー氏は娘から様子を知らせられたが、彼女がその勇侠《ゆうきょう》な気持に疲れ始めたことを大して驚きはしなかった。彼は政治上の知友関係を利用して、婿をパリーへ転任さしてもらった。
 その吉報が到着したとき、ジャックリーヌは喜びに躍《おど》り上がって、過ぎ去った幸福をみな取りもどし
前へ 次へ
全339ページ中122ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング