っても、ちょっと見ただけだが、その隙《ひま》がなかったんだ。」
「じゃあ、少し読んでみたまえ。」
 クリストフは読んだ。そして初めから放笑《ふきだ》した。
「馬鹿め!」と彼は言った。
 彼は笑いこけた。
「おやおや、」と彼はつづけて言った、「批評家ってみな自惚《うぬぼ》れてばかりいやがる。何にも知っていないくせに。」
 しかし読んでゆくに従って、彼は腹をたて始めた。あまりに愚劣だった。彼を物笑いの種となしていた。彼を「共和的な音楽家」としたがっていた。それはなんらの意味をもなさなかった……。がまあそんな洒落《しゃれ》はどうでもいいとして……彼の「共和的な」芸術を、彼以前の大家らの「聖器所の芸術」に対立せしめていた――(そういう大家らの魂からこそ彼は養われたのだった)――あまりにひどいことだった……。
「阿呆《あほう》どもが! 俺を馬鹿者にしようとしてやがる……。」
 そのうえ、彼のことに関して、彼が多少とも――(むしろごくわずかばかり)――愛してるフランスの才能ある音楽家らを、自分の職分を心得ていてりっぱな仕事をしてる音楽家らを、いじめつける理由がどこにあろう? そしてもっともいけない
前へ 次へ
全339ページ中13ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング