に接吻《せっぷん》してるように、彼もそれら未知の人々の手紙のあるものに接吻をした。どちらでもそれぞれ考えていた。
「親愛なるページよ、ほんとにお前は私に喜びを与えてくれる!」
かくて彼の周囲には、世界のいつもの律動《リズム》に従って、天才の小家庭ができ上がった。その家庭は天才から養われまた天才を養い、しだいに大きくなってゆき、ついには、天才を中心とする大きな集団的魂を――諸天体の和声《ハーモニー》にその親愛な合唱を交えながら空間を回転する、光り輝く一世界、精神上の一遊星、とも言うべきものを、こしらえ出すものである。
クリストフとその眼に見えない友人らとの間に、神秘な連繋《れんけい》が織り出されてくるに従って、彼の芸術観に革命が起こってきた。彼の芸術観はいっそう広いいっそう人間的なものとなっていった。彼はもはや、単なる独自であり自分一人のための言葉である音楽を欲しなかったし、専門家ばかりを相手のむずかしい組み立てはなおさら欲しなかった。彼は音楽が一般の人々と交渉することを欲した。他人に結びつく芸術こそ、真に生きたる芸術である。ヨハン・セバスチアン・バッハは孤立せるもっとも苦しいおりに
前へ
次へ
全339ページ中104ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング