さつ》をかわして、それぞれ自分の家へ向かった。二人とも切なかった。しかしそれは悲しみと安慰との混ざり合った感情だった。クリストフは自分の室に一人ぽっちで考えた。
「俺《おれ》のよき半分が幸福でいるのだ。」
 オリヴィエの室は少しも様子が変わっていなかった。彼が旅から帰ってきて新しく住居を構えるまでは、その道具や記念品をクリストフのところに残しておくことが、二人の間の約束だった。彼はなおそこにいるかのようだった。クリストフはアントアネットの肖像をながめ、それをテーブルの上に置き、それへ向かって言った。
「ねえ、あなたも満足ですか。」

 彼はしばしば――しばしばすぎるほど――オリヴィエへ手紙を書いた。オリヴィエからはあまり手紙が来なかった。来た手紙も素気《そっけ》ないものであって、しかもしだいに気乗りのしないものとなっていった。彼はそれに力を落としたが、しかし当然のことだと思い直した。そして二人の友情の未来については心配していなかった。
 彼は孤独にまいりはしなかった。それどころか、自分の趣味に相当するだけの孤独を得られなかった。彼はすでにグラン[#「グラン」に傍点]・ジュールナル[#「ジュールナル」に傍点]の保護を苦しみ始めていた。アルセーヌ・ガマーシュは、自分が発見するだけの労をとってやった光栄にたいしては、一つの所有権を有してると信じがちだった。ちょうどルイ十四世が自分の玉座のまわりにモリエールやル・ブランやリューリなどを集めていたように、彼もそれらの光栄が自分の光栄に結合するを当然だと思っていた。クリストフは、そのエジルへの賛歌[#「エジルへの賛歌」に傍点]の作者のほうがまだしも、自分のグラン[#「グラン」に傍点]・ジュールナル[#「ジュールナル」に傍点]の保護者に比ぶれば、芸術にたいしてさほど専横な邪魔者でもないと考えた。なぜなら、この新聞記者はルイ帝王と同じく芸術が少しもわかっていないくせに、やはり同様に固定した芸術観をいだいていた。自分の好まないものには存在することを許さなかった。それをいけない有害なものだときめてしまい、公衆の利益のためにそれを滅ぼしていた。いったい、教養のない悪く開けたそれらの実務家らが、金銭と新聞とによって、ただに政治界のみでなく精神界をも支配せんとして、首輪や餌食《えじき》とともに小屋を提供し、もしくはその拒絶に会って、自分の同勢
前へ 次へ
全170ページ中44ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング