るのだ。そして彼女は、オリヴィエとの共同生活から得た道徳的な一徹さをまだ失わないでいて、それを不道徳な行ないにまで応用しようとしていた。
彼女の新しい友人らはきわめて用心深くて、自己の真相をなかなか他人に示さなかった。理論の上では、道徳と社会とのもろもろの偏見にたいして、完全なる自由を看板としていたが、実行においては、自分らの利益となるような人とは、真正面から仲違《なかたが》いすることのないように振る舞っていた。あたかも主人のものをごまかす不忠実な召使のように、彼らは道徳と社会とを悪用していた。習慣と閑散とのためにたがいに盗み合ってさえいた。自分の妻が情夫をもってることを知ってる者が幾人もいた。また細君のほうでも、夫が情婦をもってることを知らないではなかった。そして彼らはよく和合していた。人の噂《うわさ》がたたなければ憤慨しなかった。そういう仲のよい夫婦生活は、関係者たち――共犯者たちの間の暗黙な了解の上にたっていた。しかしジャックリーヌは彼らよりいっそうまっ正直であって、生一本《きいっぽん》な行動をしていた。一にも二にも真面目《まじめ》であり、常住不断に真面目だった。真面目ということもまた、当時の思想が激賞する美徳の一つだった。しかし、健全なる者にとってはすべてが健全であり、腐敗せる心にとってはすべてが腐敗であるということは、ここにおいて見られるのである。時としては、真面目であることがきわめて醜悪になる。凡庸な者どもにとっては、自分の胸底を読み取ろうとするのは悪いことである。彼らはそこに自分の凡庸さを読み取る。しかも自尊心を育てるだけのものはなお残っている。
ジャックリーヌは、鏡で自分の姿をながめてばかりいた。見ないほうがよろしいいろんなことを見て取った。見てしまった後ではもう、それから眼をそらすだけの力がなかった。それらを征服するどころか、それらがしだいに大きくなるのを認めた。非常に大きくなっていって、ついには眼も考えもそのほうに奪われてしまった。
子供は彼女の生活を満たすに足りなかった。彼女は乳が不足して、子供は衰えていった。乳母《うば》を雇わなければならなかった。初めはそれがたいへんつらかった――が間もなくそれは安堵《あんど》の念をもたらした。もう子供はたいへん丈夫になった。根強く元気に育ってゆき、少しも手数をかけず、たいてい眠ってばかりいて、夜もあま
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