いけないのは、身を縛《いまし》めない束縛やのがれ得る義務などをもってることである。
 もしジャックリーヌが、自分の小さな家こそ一生の間自分にあてがわれたものだと思っていたならば、彼女はそれをさほど不便にも狭くも感じなくて、それを安楽なものにしようとくふうしたであろう。始めと同じように終わりまでそれを愛したであろう。しかし彼女は、自分は家から外に出ることができると知っていた。そして家の中で息苦しさを覚えた。彼女は反抗することができた。ついには反抗しなければならないと信ずるにいたった。
 現時の道徳論者らは、不思議な者どもばかりである。彼らはその観察能力のために全身が萎縮《いしゅく》している。彼らはもはや生活を見ることしか求めない。生活を理解しようとはほとんどせず、生活を欲しようなどとは少しもしない。人間の性質中に現存する事柄を認識し記載するときには、もう自分の仕事はそれで終われりとして、こう言うのである。
「それが事実だ。」
 彼らはその事実を変えようとは少しもつとめない。彼らの眼には、存在してるというだけの事実が一つの道徳的価値とでも映じてるらしい。あらゆる弱点はそのまま一種の神聖な権利を有してるように思われてる。世は民衆化する。昔は国王一人だけしか責任をもっていなかった。現今では、責任をもっていないのは万人であり、ことに下層民たちであるそうだ。実に驚くべき意見ではないか! 彼らは、多くの苦心と細心な注意とを払って、弱き者にいかなる点において弱いかを示そうと骨折っている。弱き者は永遠に弱きように自然から定められてるということを、示そうと骨折っている。もしそうだとすれば、弱き者は腕を拱《こまね》くこと以外に何をなし得よう? 弱き者に自惚《うぬぼ》れの念なきときは幸いなるかなだ! 汝は病弱な子供であるとくり返し聞かせらるるうちには、女はついに病弱なる子供であることを誇りとするようになる。人は女の卑怯《ひきょう》な性質を培養し、それに花を咲かせている。しかし、試みに子供に向かって、幼年期のある年齢では、魂はまだその平衡の状態になっていないで、罪悪や自殺や心身のはなはだしい堕落に陥ることがあると、冗談にも話してきかして、そしてその罪を許してみるがいい――ただちに、罪が生まれてくるだろう。男でさえも、汝は自由でないとくり返し言われるときには、もう自由でなくなって禽獣《きんじゅ
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