いる。
[#ここで字下げ終わり]
[#地から2字上げ]クリストフ
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ジャンナン夫人へよろしく。
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「ジャンナン夫人」は、唇《くちびる》をきっと結び、軽侮の微笑を浮かべながら、その手紙を読んだ。そして冷やかに言った。
「ではあの人の忠告にお従いなさいな。あなた自身をお救いなさい。」
しかし、オリヴィエが手を差し出して手紙を取りもどそうとすると、ジャックリーヌはいきなりそれをもみつぶして、下に投げ捨てた。そして大粒の涙が両の眼からほとばしった。オリヴィエは彼女の手をとった。
「どうしたんだい?」と彼はびっくりして尋ねた。
「構わないでください!」と彼女は憤然として叫んだ。
彼女はそこを出て行った。扉《とびら》の敷居の上で彼女は叫んだ。
「得手勝手な人たちだわ!」
クリストフはついに、グラン[#「グラン」に傍点]・ジュールナル[#「ジュールナル」に傍点]新聞の保護者たちを、敵となしてしまった。それは前から容易にわかってることだった。クリストフは、ゲーテが称揚した「無感謝[#「無感謝」に傍点]」という徳を、天から授かっていた。ゲーテは皮肉にこう書いている。
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感謝の様子を示すのをきらう者は、きわめてまれである。ただ、もっとも憐《あわ》れな階級から出て来て、恩恵者の下劣さにたいていいつも毒されてる助力を、一歩ごとに受けなければならなかったような、著名な人々のみが、この嫌悪《けんお》の情を表わすものである。
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クリストフは、世話をされたのにたいして、こちらで身を卑《ひく》くしたりまた自由を捨てたり――その二つは彼にとっては同一事だった――しなければならないとは、考えていなかった。彼は恩恵をそんな高利で貸しつけはしないで、ただで与えていた。ところが彼に恩をきせた者たちのほうでは、少し違った意見をもっていた。債務者にはそれだけの義務があるという至って高い道徳観念をもっていた。それで、この新聞の主催になるある広告的祝賀のために、ばかばかしい祝賀音楽を書くことを、クリストフが断わると、彼らは気持を悪くした。彼にその行為の無作法さを思い知らしてやった。彼はそれを撃退した。それからしばらくたって、彼の主張だとその新聞が書きたててる事柄について、彼は猛烈に誤りを指摘したので、ついに彼ら
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