に陥っていった。彼は二、三度それにみずから気づいて、はっきり我に返ろうとした。しかし無駄だった。快活に叫び散らし、立ち上がって、冷水の盥《たらい》に頭をつき込んだ。それで少し酔い心地からさめた。黙ってぼんやり微笑を浮かべながら、テーブルのところにもどってすわった。彼は考えた。
「これと恋愛との間に違いがあるかしら?」
 本能的に彼は、あたかも恥ずかしがってるかのようにそっと考えていた。彼は肩をそびやかした。
「愛するのに二つの仕方はない……いやむしろ二つある。自分の全部を挙げて愛する仕方と自分の皮相な部分のわずかだけをささげて愛する仕方とだ。俺《おれ》は後者のような吝《し》みったれた心をもちたくないものだ!」
 それから先は一種の羞恥《しゅうち》を覚えて、考えるのをやめた。そして長い間じっと、内心の夢想に微笑《ほほえ》みかけていた。彼の心は沈黙のなかに歌っていた。
 ――君は私のもの。そして今や初めて、私はまったく私のもの……。
 彼は紙をとって、心が歌ってることを静かに書きつけた。

 二人はいっしょの部室《へや》に住もうときめた。クリストフは半期分の部室代《へやだい》を無駄にするの
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