にたつだろうか。そしてユダヤ人らがいなかったら、たぶんそれは知られずに終わるだろう。われわれを助けに来てくれるものは、われわれの同宗教者たちだろうか。カトリック教は、その血縁のもっともすぐれた人々を、少しも保護しようとはせずに滅ぶるに任している。魂の底からして信仰してる人たち、神を守るために一生をささげてる人たち、そういう人々はすべて――もし彼らが大胆にカトリックの教則から離れローマの権力から脱した暁には――自称カトリックの卑しい多衆からは、ただに冷淡であるばかりでなくまた敵意ある者と見なされる。そして多衆は彼らのことには口をつぐみ、彼らを共通な敵の餌食《えじき》としてしまう。また、自由精神の人は、いかに偉大な人であろうとも――もし彼が心からのキリスト教徒でありながらも服従的なキリスト教徒でない場合には――もっとも純なる真に聖なる信仰を彼が体現していることも、カトリック教徒らにとってはなんの重きもなさない。その人は羊の群れに属する者ではなく、自分自身で考えることをしない盲目|聾唖《ろうあ》の信者ではない。それゆえ彼は人々から好んで打ち捨てられ、ただ一人で苦しみ、敵から引き裂かれ、同胞の助けを呼び求めながら、同胞の信仰のために死んでゆく。実に今日のカトリック教のうちには、殺害的な懶惰《らんだ》の力が存在している。今日のカトリック教は、それを覚醒《かくせい》さしそれに生命を与えんとする人々よりも、敵のほうをいっそう容易に容赦するかもしれない……。ねえクリストフ、少数の自由な新教徒とユダヤ人とがいなかったら、民族的にはカトリック教徒であり自身では自由人となってるわれわれは、いったいどうなるであろうか、何をすればいいのであろうか。ユダヤ人らは今日のヨーロッパにおいては、あらゆる善悪のもっとも長命な代表者である。彼らは思想の花粉をやたらにもち回っている。君は最初の悪い敵と最初の友とを、彼らのうちに見出しはしなかったか。」
「それはまったくだ。」とクリストフは言った。「彼らは僕を励まし支持してくれ、理解してることを示しながら戦う者に元気をつける言葉を、僕にかけてくれた。もとよりそれらの友のうちで、長く僕に忠実だった者はごく少ない。彼らの友情は藁火《わらび》にすぎなかった。それでも結構だ。闇夜《やみよ》の中ではその一時の光もありがたい。君の言うことは道理だ。忘恩者ではありたくないものだ。」
「ことに愚昧《ぐまい》者ではありたくないものだ。」とオリヴィエは言った。「いちばん古い枝を少しく切り落とすのだと称しながら、すでに病弱なわれわれの文明の幹を痛めたくないものだ。もし不幸にも、ユダヤ人らがヨーロッパから追われるならば、ヨーロッパはそのために知力と活動とが貧しくなって、全然崩壊してしまうかもしれない。ことにわれわれのうちにあっては、フランスの活動力の現今のような状態では、ユダヤ人らを放逐することは、十七世紀における新教徒らの放逐よりも、国民にとっていっそう危険な出血となるかもしれない。――もちろん彼らは現在では、その真価に不相応な地位を占めている。彼らは現今の政治および道徳上の無政府状態に乗じている。生来の趣味からまた好都合なところから、この状態の助長に少なからず力を尽くしている。すぐれた者らはあの敬すべきモークのように、フランスの運命と彼らユダヤ人の夢想とを、不都合にもごく真面目《まじめ》に同一視している。そのユダヤ人の夢想がまた、われわれにとって有益であるよりもむしろ多くは危険だ。しかし、彼らがフランスを自己流にこしらえ上げたがってるからといって、彼らを悪く思ってはいけない。それは彼らがフランスを愛してるからなのだ。たとい彼らの愛が恐るべきものであるとしても、われわれは自分自身を守りさえすればいいし、彼らをわれわれのうちでの本来の地位たる第二流の列に置きさえすればいい。と言って僕は、彼らの民族がわれわれの民族より劣ってると思ってるのではない。――(すべてかかる民族の優劣問題はつまらない不快なことだ。)――しかしながら、われわれの民族とまだ融和していない他の民族が、われわれに何が適してるかをわれわれ以上によく知ってると主張するのは、容認しがたいことだ。その民族がフランスでよくやってゆくことには、異議はない。しかし、フランスをユダヤ国たらしめようと望んではもらいたくない。知力|秀《ひい》でた強固な政府があって、ユダヤ人らをその本来の地位にすえ得るならば、フランスを偉大ならしむるもっとも有用な道具の一つと彼らをなすだろう。そして、われわれのためになると同時に彼らのためにもなるだろう。かかるそわそわした不安定な神経過敏な者らには、彼らをしめくくる法律の必要があり、彼らを制御する強い正しい首長の必要がある。ユダヤ人は女のようなものだ。人から手綱を
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