B一人で社会の精神状態を一挙に変えることができるものか。それはあまりによすぎる事なんだ。しかし君は自分で知らずにもう多くのことをしている。」
「何を僕がしてるんだい?」とクリストフは言った。
「君は一個のクリストフとなってる。」
「それがなんで他人のためになるのか。」
「大いにためになるさ。だがクリストフ、君はただ君自身でありたまえ。僕たちのことに気をもまないようにしたまえ。」
しかしクリストフはあきらめられなかった。彼はなおシャブラン少佐と議論をつづけ、時には猛烈に言い合うこともあった。セリーヌはそれを面白がっていた。彼女は黙って仕事をしながら二人の話を聞いていた。議論には加わらなかった。けれど以前よりも快活になったように見えた。以前よりも多くの輝きを眼つきに帯びていた。前よりも広い空間が彼女のまわりにできたようだった。彼女は読書を始め、外出することがやや多くなり、興味をもつ事柄が多くなった。そしてある日少佐は、エルスベルゼ兄弟のことでクリストフと論争してるとき、彼女が微笑《ほほえ》んでるのを認めた。彼は彼女にどう思うかと尋ねた。彼女は平然と答えた。
「クラフトさんのほうが道理《もっとも》だと思いますわ。」
少佐はまごついて言った。
「そりゃひどい!……だが結局、道理であろうがあるまいが、われわれは今のままで満足だ。あんな人たちに会う必要はない。ねえお前、そうじゃないか。」
「いいえ、お父《とう》様、」と彼女は答えた。「お会いしたほうが私はうれしゅうございますわ。」
少佐は口をつぐんで、聞こえなかったようなふうをした。が彼自身でも、様子にはそれと見せたくなかったが、クリストフの影響をかなり感じていた。彼は批判の偏狭さと気質の猛烈さとにもかかわらず、正しい精神と寛大な心とをそなえていた。彼はクリストフが好きで、その率直さと精神の健全さとを好んでいて、クリストフがドイツ人であるのがしばしば遺憾でたまらなかった。彼はクリストフとの議論中によく憤激したが、それでもなおそういう議論を求めていた。そしてクリストフの理論は彼に働きかけずにはいなかった。彼はそのことを承認すまいと用心していた。ところがある日クリストフは、彼が一冊の書物に読みふけってるのを見出した。彼はその書物をどうしても見せなかった。するとセリーヌは、クリストフを送り出してきて二人きりになると言った。
「お
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