たろう。が彼はクリストフよりずっと劣ってると自分を見なしていた。クリストフも同様にみずから卑下していた。そしてこの相互の謙譲は、彼らの大きな愛情から来たものであって、さらに一つの楽しみだった。友の心のうちに多大の場所を占めてると感ずることは――それが身に余ることだと意識してもなお――非常にうれしいことだった。そして二人はたがいに、しみじみとした感謝の念を覚えていた。
 オリヴィエは自分の書物をクリストフのといっしょにしておいた。もうその間の区別をたてなかった。ある本のことを話すときには、「僕の[#「僕の」に傍点]本」と言わないで、「僕たちの[#「僕たちの」に傍点]本」と言った。そして彼が共同の財産中に交えないで別にしておいた品物は、ごくわずかな数しかなかった。それは皆、姉の所持品だったものか、あるいは姉の思い出を帯びてるものだった。クリストフは愛情から来る敏感さで、間もなくそれに気がついた。しかしその理由は知らなかった。彼はかつてオリヴィエにその両親のことなどを尋ねなかった。もう両親がないことだけを知っていた。そして、愛情の上での多少高ぶった控え目から、友の秘密を探り出すことを避けたうえに、過去の悲しみを友の心に呼び覚《さ》ますことを恐れる懸念もあった。友の身の上を非常に知りたくはあったけれど、ある妙な気遅れから、オリヴィエのテーブルの上にある写真を目近く見調べることさえ、なし得ないでいた。写真に現われてるのは、威儀を正した紳士と貴婦人と、それから、足元にスパニエル種の大きな犬を置いた十二、三歳の少女とであった。
 いっしょに住んでから二、三か月後に、オリヴィエは悪寒《おかん》を覚えた。床につかなければならなかった。クリストフは慈母めいた心持を起こして、気づかわしい情愛で看護をした。医者はオリヴィエを聴診して、肺尖《はいせん》に少し炎症を発見し、患者の背中にヨードチンキの塗布をクリストフへ頼んだ。クリストフはその役目を真面目《まじめ》くさってやってのけたが、そのとき、オリヴィエの首に聖牌《せいはい》がかかってるのを見出した。彼は今ではもうオリヴィエを十分理解していて、オリヴィエが彼よりもいっそう宗教心から離脱してることを、よく知っていた。それで聖牌を見出した驚きを隠しきれなかった。オリヴィエは顔を赤めた。そして言った。
「これは記念の品なんだ。憐《あわ》れなアントア
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