ノたいしていだいてることを白状した。エルスベルゼの家は少佐の家と昔から交際があった。しかしごく懇意だったあとに、政治上のことで離れ離れになった。それ以来もう行き来をしなかった。クリストフはそんなことを馬鹿げてると思う様子を隠さなかった。各人各自の考え方をしながらなお尊敬し合ってゆくということが、できないものだろうか? アンドレは、自分は自由な精神をもってると抗弁した。しかし二、三の問題は寛容外のことだと言った。彼によれば、それらの問題について異なった意見をもつのは許されないことだった。そして彼は有名なドレフュース事件をあげた。それについて彼も普通一般のとおりに無茶な論をした。クリストフはその慣例を知っていたし、少しも議論を闘《たたか》わそうとはしなかった。しかしただ、その事件もいつか終わりを告げることがないものかどうか、その呪《のろ》いは孫子の末の末にまで永遠に波及すべきものであるかどうかを、尋ねてみた。アンドレは笑いだした。そしてクリストフに答えはしないで、セリーヌ・シャブランをしみじみとほめたたえ、彼女から献身的に仕えられるのを当然だと思ってる父親の利己心を非難した。
「彼女と愛し愛されてるのなら、なぜ結婚しないんですか。」とクリストフは言った。
 アンドレはセリーヌが僧侶《そうりょ》派であることを嘆じた。僧侶《そうりょ》派とはどういうことかとクリストフは尋ねた。その答えによれば僧侶派とは、宗教上の務めを守り神や坊主どもに奉仕するということだった。
「そしてそれがなんの妨げになるんですか。」
「だって僕は自分の妻が自分以外のものに所有されることを望みません。」
「ほう、あなたは細君の思想にまで嫉妬《しっと》するんですか。じゃああの少佐よりもあなたのほうがいっそう利己的だ。」
「それは勝手な理屈です。たとえばあなたは音楽を愛しない女をもらえますか。」
「もらおうとしたこともありますよ。」
「思想が違っててどうしていっしょに暮らせるでしょうか。」
「そんなことをくよくよ考えるには及ばないでしょう。なあに、愛するときには思想なんかどうだって構わない。僕の愛する女が僕と同じく音楽を愛してくれたって、なんの足しになるものですか。僕にとってはその女が音楽なんです。あなたのように、相愛のかわいい娘があるという喜びを得るときには、彼女は彼女の好きなものを信ずるがいいし、あなたは
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