ォつけた。その声のほうへ進んでいってみると、クリストフはある小さな空地に、子牛のように仰向けにひっくり返っていた。クリストフはモークの姿を見ると、快活に声をかけ、「親愛なモロック」と呼び、相手の身体を穴だらけにしてやったと話した。そして、無理に背飛び遊戯の相手をさせ、向こうにも飛ばせ、また自分が飛ぶときには、ぴしりとその背をひどくたたきつけてやった。モークも他愛なく、下手《へた》ではあるが彼と同じくらいに面白がった。――二人は腕を組み合わして飲食店にもどって来、それから近くの駅で汽車に乗ってパリーへ帰った。
 オリヴィエはその出来事を知らなかった。彼はクリストフのやさしい態度に驚かされ、その急な変わり方が腑《ふ》に落ちなかった。翌日になってようやく、クリストフが決闘したことを新聞で知った。クリストフが冒した危険のことを考えると、気持が悪くなるほどだった。彼はその決闘の理由を知りたがった。クリストフは話さなかった。あまりうるさく聞かれて、笑いながら言った。
「君のためにだ。」
 オリヴィエはそれ以上一言も聞き出し得なかった。モークが事情を話してくれた。オリヴィエは駭然《がいぜん》として、コレットと交わりを絶ち、自分の不謹慎を許してくれとクリストフに願った。クリストフは頑《がん》として聴《き》き入れず、二人の友の幸福なさまをうれしげにながめてる人のよいモークが腹をたてるのも構わずに、フランスの古い諺《ことわざ》を勝手に意地悪くもじって誦《しょう》してきかした。
「君、うっかり人を信用するものでないことがわかるだろう……。

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隙《ひま》なお饒舌《しゃべり》娘から、
にせ信心のおべっかユダヤ人から、
うわべばかりの友だちから、
馴《な》れ馴れしい敵《かたき》から、
そして気のぬけた葡萄《ぶどう》酒から、
主よわれらを救いたまえ[#「主よわれらを救いたまえ」に傍点]!」
[#ここで字下げ終わり]

 友情は回復された。危うく友情を失うかもしれない恐れに臨んだために、その友情はいっそう濃《こま》やかになった。つまらぬ誤解は消えてしまった。二人の性格の差異がかえって二人をひきつける種となった。クリストフはその魂のうちに、和合した両国の魂を包み込んだ。彼は自分の心が豊かで充実してるのを感じた。そしてその楽しい豊満は、彼にあってはいつものとおりに音楽の流れとな
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