゚たくなかったので、はっきり言ってきかせなかったが、モークはついにそれを察した。彼は冷静であり二人の友人の人柄を知っていたので、オリヴィエが負わせられてるちょっとした背信の行為というのは事実無根であることを、少しも疑わなかった。そして事の起こりを調べにかかって、その間違いはコレットとレヴィー・クールとの饒舌《じょうぜつ》から来たものであることを、わけなく発見してしまった。彼は大急ぎでもどって来て、それをクリストフに証明した。それで決闘をやめさせるつもりだった。しかし結果は反対だった。クリストフは、レヴィー・クールのせいで友に疑いをかけたのだと知ると、ますますレヴィー・クールにたいして憤った。そして、決闘するなとしきりにモークが頼むので、その厄介《やっかい》払いをするために、なんでも言うとおりになると約束した。しかし決心を固めていた。こうなるとまったく愉快だった。決闘するのはオリヴィエのためにだった。もう自分のためにではなかった。
馬車が森の中の径《みち》を進んでいるうちに、介添人の一人が発した言葉は、突然クリストフの注意を呼び起こした。彼は介添人らが考えてることを読み取ろうとつとめた。そして、彼らがいかに自分にたいして無関心でいるかを知った。バールト教授は、何時ごろこの片がつくかを考え、国民文庫[#「国民文庫」に傍点]の原稿のために始めていた仕事をその日のうちに終えられるくらいに、家に帰れるかどうかと考えていた。それでもクリストフの三人の連れのうちでは、ゲルマンの自負心から決闘の結果をもっとも気づかってる人だった。グージャールのほうは、クリストフのこともも一人のドイツ人のことも念頭に置かずに、猥褻《わいせつ》心理の露骨な問題について医者のジュリアンと話していた。このジュリアンは、トゥールーズ生まれの若い医者で、最近クリストフと同階の隣人となり、ときどきアルコールランプや雨傘《あまがさ》やコーヒー皿《ざら》などを借りに来ては、いつもこわして返すのだった。その代わりには無料で診察をしてやり、いろいろの薬剤をすすめ、そして彼の率直な性質を面白がっていた。スペインの貴族みたいなその冷静さの下には、絶えざる嘲弄《ちょうろう》が潜んでいた。彼はこの決闘事件をひどく面白がり、それを道化じみたものと思っていた。そして前もって、クリストフの無器用さを当てにしていた。人のよいクラフ
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