きれるのほかはない……。
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破滅の叫び……その叫びの声はモアブの全地に響き渡る。彼の怒号の声はエグライムにまで達す。彼の怒号の声はベーリムにまで達す……。
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「そして彼は、殺戮《さつりく》の間に、踏みつぶされた子供や強姦《ごうかん》され腹を割《さ》かれた女などの間で、ときどき休息する。そして、都市を略奪して食卓についてるヨシュアの軍卒のように、彼はうち笑う。
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しかして軍勢の主君は、脂《あぶら》こき肉の、柔らかき脂肉《あぶらみ》の馳走《ちそう》、古き葡萄《ぶどう》酒の、よく澄める古葡萄酒の馳走を、その人民どもになしたもう……。主君の剣は血に満てり。主君の剣は羊の腎臓《じんぞう》の脂肪に飽きたり……。
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「もっともいけないのは、この神が不誠実にも、予言者を遣《つか》わして人々を盲目にすることだ。それも彼らを苦しませるための理由を得るためにだ。
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行け、この民の心を堅からしめ、その眼と耳とをふさげよ。彼らが悟ることを恐るればなり。彼らが改心して健康を回復することを恐るればなり。――主よ、何時までなりや。――家にはもはや人なく土地は荒廃に帰するまで、しかせよ……。
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「いや僕は生まれてからまだかつて、これほど邪悪な男を見たことがない……。
「僕とても、言葉の力を認めないほど馬鹿ではない。しかし思想を形式から引き放すことはできないのだ。僕がときとしてこのユダヤの神を感嘆することがあるとしても、それは虎《とら》などを感嘆するのと同じ態度でなんだ。種々の怪物を生みだすシェイクスピヤでさえもこんな憎悪《ぞうお》の――神聖な貞節な憎悪の――英雄を、うまくこしらえ出すことはできなかった。こんな書物は実に恐ろしいものだ。狂気はすべて伝染しやすい。そしてこの書物の狂気のうちには、その殺害的な傲慢《ごうまん》さに純化的主張があるだけに、さらに大なる危険がこもっている。イギリスが数世紀来それを糧《かて》としてるのを思うと、僕はおののかざるを得ない。イギリスと僕との間に海峡の溝渠《こうきょ》が感ぜられるのは仕合わせだ。ある民衆が聖書《バイブル》で身を養ってる間は、僕はそれをまったくの文化の民だとはけっして信じないだろう。」
「それでは君は
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