る考えは、くつがえされてしまった。彼の眼に映ったものは、快活な社交的な無頓着《むとんじゃく》な花やかな民衆ではなくて、自己中心的な孤立した精神の人々であった。彼らはあたかも輝いた雲霧に包まれてるように、楽観主義の外観に包まれてはいたが、しかし深い静穏な悲観主義のうちに浸っていて、一定の観念にとらわれ、知的熱情にとらわれていて、変化させるよりもむしろ破壊するほうがやさしいほどの確固不動な魂の人々だった。それはもちろん、フランスの優秀者らの一部分にすぎなかった。しかしクリストフは、彼らがどこからそういう堅忍と信念とを汲《く》み取って来たかを怪しんだ。オリヴィエは彼に答えた。
「敗北の中から汲み取ってきたのだ。クリストフ、君たちドイツ人がわれわれを鍛えてくれたのだ。ああそれは苦しくないことはなかった。眼前に死滅をながめてき、武力の暴虐な威嚇《いかく》が常にのしかかってるのを感じてる、辱《はずか》しめられ傷つけられたフランスにおいて、いかなる暗澹《あんたん》たる雰囲気《ふんいき》の中にわれわれが生長したかは、君たちには想像もつくまい。われわれの生命、われわれの精神、われわれのフランス文明、十世紀の間得ていた偉大さ――それらのものが、それを少しも理解せず、それを心の底では憎悪し、それをいつでも永久に粉砕しつくし得る、暴戻《ぼうれい》な征服者の掌中《しょうちゅう》にあることを、われわれは知っていた。そしてそういう運命を守って生きなければならなかった。思ってもみたまえ、フランスの少年らは、敗北の影たちこめた喪中の家に生まれ、意気|沮喪《そそう》した思想に養われ、血腥《ちなまぐさ》い宿命的なそしておそらく無益な復讐《ふくしゅう》のために育てられたのだ。というのは、彼らはいかにも幼少ではあったけれど、彼らが意識した第一のことは、正理がないということ、この世に正理がないということだった。力が権利を圧倒するということだった。そういう発見が子供の魂を永久に毀損《きそん》したのだ、もしくは生長さしたのだ。多くのものは自棄《やけ》になってしまった。彼らはみずから言った。『こうしたものだとすれば、戦ってなんのためになろう? 活動してなんのためになろう? くだらないことはくだらないんだ。考えないようにしよう。享楽しよう。』――しかし抗争した者たちは、熱火にも堪え得るのだ。いかなる幻滅も彼らの信念を
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