れらはまた、フランス人の貧血に、活力の漸減《ぜんげん》に、関係がないではなかった。
クリストフとオリヴィエとが住んでる家の下のほう、四方壁に取り巻かれた底にある、優雅な庭は、かかるかわいいフランスの象徴であった。それは外部の世界に戸を閉ざしてる緑の一隅《いちぐう》だった。ただときどき、外部の大きな風が、渦《うず》巻きながら吹きおろしてきて、夢想してる若い娘に遠い畑地と広い土地との息吹《いぶ》きをもたらしてくるのだった。
今やクリストフは、フランスの隠れたる源泉を瞥見《べっけん》し始めたので、フランスが下劣な者どものために圧迫されるままになってるのを、憤慨せずにはいられなかった。その黙々たる優秀者らが潜み込んでる薄明の境は、彼には息苦しかった。堅忍主義は、もう歯牙《しが》を失ってる人々にはよいことである。しかし彼は、戸外の空気を、大なる公衆を、栄光の太陽を、幾多の魂の愛を、おのが愛する者をすべて抱きしめることを、敵を粉砕しつくすことを、戦いそして征服することを、必要としているのであった。
「君にはそれができる。」とオリヴィエは言った。「君は強い。君は征服するようにできている。それは君の長所から来てるとともに――(失礼だが)――欠点からも来ている。君は仕合わせにもあまりに貴族的な民衆に属してはいない。活動を君は厭《いや》がりはしない。君は必要によっては、政治家となることさえできるだろう……。それにまた、君は作曲というこの上もない仕合わせな能力をもっている。人にはわからないから、君はなんでも言うことができる。君の音楽のうちにある世人にたいする軽蔑《けいべつ》や、世人が否定してるものにたいする信仰や、世人が滅ぼさんとつとめてるものにたいする絶えざる賛歌などを、もし世人が知り得たら、世人はけっして君を許してはおかないだろう。君は彼らから邪魔されつきまとわれいらだたせられて、彼らと戦うことに最善の力を費やしてしまうだろう。彼らに打ち克《か》つときには息が切れて、もう自分の仕事を完成することができないだろう。君の生命はそこに終わってしまうだろう。偉人が勝利を得るのは、世人から誤解されるおかげによってである。人は偉人をその真相と反対の点から賞賛するのだ。」
「ふふん!」とクリストフは空うそぶいた。「君たちは自国の大人物どもの怯懦《きょうだ》を知らないのだ。僕は初め君一人が知
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