他日世界から認められると確信していた――そしてそれは彼の自惚《うぬぼ》れでもなかった。クリストフはもっとよく彼を知りたがり、彼と交際をしたがった。しかしその方法がなかった。オリヴィエと彼とは、しばしば用があったけれど、たがいに会うのはごくまれであって、それもただ用件のためばかりだった。彼らは心のうちを少しも語り合わなかった。抽象的な意見を少しばかりかわすのがようやくだった。と言うよりもむしろ――(なぜなら、正確に言えば、意見の交換をすることはなくて、各自に自分の考えを胸中にしまっていたから)――彼らはいっしょになって勝手に独白ばかりしていた。それでも彼らこそ、たがいの価値を知り合ってる戦友どもであった。
 そういう控え目なやり方には、彼ら自身でも見分けがたい多くの理由が存していた。第一には、各精神間のいかんともできない差異をあまりにはっきりと見てとる、過度の批評癖であり、それらの差異をあまりに重要視する、過度の理知主義であった。生きんがために愛したがり満腔《まんこう》の愛を消費したがる力強い率直な同情心、それの欠けてることだった。つぎにはまたおそらく、仕事の疲労、あまりに困難な生活、思想の熱烈さ、などであった。そのために彼らは、晩になるともはや、親しい会談を楽しむだけの力がなかった。最後には、フランス人としては告白するのが恐ろしい、しかも心の底にしばしば唸《うな》っている、同民族の者でない[#「同民族の者でない」に傍点]、という恐ろしい感情であった。われわれは異なった民族の者であり、異なった時代にフランスの土地に居を定めた者であって、一つに結合しながら、共通の思想をもつこと少なく、しかも共同の利益のためにそのことをあまり考えてはいけない、という恐ろしい感情であった。そしてまた何よりも、自由にたいする熱狂的な危険な情熱であった。人はそれを一度味わうと、何物をも犠牲にして顧みなくなる。そしてその自由な孤独境は、多年の困難によって購《あがな》われたものだけに、いっそう貴重なものとなっている。優秀な人々は、凡人らから奉仕されるのをのがれんがために、その中に逃げ込んでいる。それは実に、宗教や政治上の集団の重圧、フランスにおいて個人を押しつぶしてる巨大な重み、すなわち、家庭、世論、国家、秘密結社、党派、徒党、流派、などの暴虐にたいする反動である。たとえば、脱獄せんがためには十重
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