考えるだけで自分も堕落する気がした。彼は母や姉とともに祈祷《きとう》のうちに逃げ込んだ。彼ら三人の潔白な心には、日ごとに受ける内心の失意や屈辱なども、一つの汚れだと思われてたがいに語り合うこともできず、夜になるといつもいっしょに、熱心な祈祷をするのであった。しかしオリヴィエの信仰は、パリーで呼吸される潜在的な無神論の精神に触れて、みずから気づかないうちにすでにこわれ始めていた。ま新しい漆喰《しっくい》が雨に打たれて、壁からはげ落ちるのと同じだった。彼はなお信じつづけてはいた。しかし彼の周囲には神が死にかかっていた。
母と姉とは無駄《むだ》な奔走をつづけていた。ジャンナン夫人はまたポアイエ家を訪れた。ポアイエ家の人々は彼らを厄介《やっかい》払いしたがって、地位を見出してやった。ジャンナン夫人の方は、南方で冬を過ごしてるある老貴婦人の家に、朗読者としてはいることだった。アントアネットの方は、一年じゅう田舎《いなか》に住んでいるフランス西部のある家庭に、家庭教師として雇われることだった。条件はさほど悪くなかった。しかしジャンナン夫人は断わった。彼女が反対したのは、自分が他人に使われるという屈辱よりもさらに、娘がそういう地位に陥るということであり、ことに自分のもとから娘が遠く離れるということであった。いかに不幸であっても、そしてまた、不幸であるからこそ、彼らはいっしょにいたかったのである。――ポアイエ夫人はそれをごく悪く取った。生活の方法がないときには高ぶってはいけない、と彼女は言った。ジャンナン夫人は、彼女の心なしをとがめずにはいられなかった。ポアイエ夫人は、破産のことやジャンナン夫人が借りていった金について、ひどいことを言いたてた。二人は和解の道のない喧嘩《けんか》別れをした。関係はすべて絶えてしまった。ジャンナン夫人はもう一つの願いしかもたなかった、借りた金を返済すること。しかしそれが彼女にはできなかった。
無益な運動がつづけられた。幾度もジャンナン氏の世話になった同県の代議士と上院議員とを、ジャンナン夫人は訪問した。しかしどこへ行っても忘恩と利己主義とにぶつかった。代議士は手紙へ返事もくれなかった。彼女が自分で訪れてゆくと、不在だとの答えだった。上院議員は彼女の境遇に粗雑な同情を寄せた口のきき方をし、その境遇も「あの悪いジャンナン」のせいだとして、ジャンナンの自
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