自分の旅行中二人は何をしていたかと尋ねた。しかし彼らの答えに耳を貸しはしないで、ただその声の響きだけを聞いていた。そして彼らの上に眼をすえてはいたけれど、眸《ひとみ》は他に向いていた。オリヴィエはそれを感じた。他愛ない話の中途で口をつぐんで、言いつづける気がしなかった。しかしアントアネットの方は、ちょっと気まずい思いをした後に、快活な気分の方が強くなった。愉快な鵲《かささぎ》のようにしゃべりながら、父の手に自分の手を重ねたり、父の腕にさわったりして、話してることをよく聞かせようとした。ジャンナン氏は黙っていた。アントアネットからオリヴィエの方へ眼を移した。その額の皺はますます深くなった。娘が話してる最中に、彼はもう堪えかねて、食卓から立ち上がり、感動を隠すために窓の方へ行った。子供たちは胸布《ナプキン》をたたんで、同じく立ち上がった。ジャンナン夫人は彼らを庭へ遊ばせにやった。彼らが金切声をたてて小径《こみち》で追っかけ合ってるのが、間もなく聞こえてきた。ジャンナン夫人は夫をながめた。夫はその方へ背中を向けていた。彼女は何か片付けるふうで食卓を回った。そして突然彼女は彼に近寄って、召使どもに聞かれはすまいかという懸念《けねん》から、また自分自身の心痛のあまりに、声をひそめて言った。
「あなた、どうなすったんです? どうかなすったのでしょう……。何か隠していらっしゃるのでしょう……。災難でも起こりましたか。苦しいことでもおありですか。」
しかし彼は、そのときもなお彼女を避けて、いらだたしげに肩をそびやかし、きつい調子で言った。
「いや、そんなことはないんだ。構わないでおいてくれ。」
彼女はむっとして遠のいた。どんなことが夫に起ころうともう気をもんでやるものかと、盲目な憤りのうちにみずから去った。
ジャンナン氏は庭へ降りていった。アントアネットは悪戯《いたずら》をしつづけて、弟をいじめては駆けさしていた。しかし弟はもう遊びたくないと突然言い出した。そして父から数歩離れた所で、覧台《テラース》の墻壁《しょうへき》によりかかった。アントアネットはなお彼をからかおうとした。しかし彼は口をとがらしながらそれを押しのけた。すると彼女は何か悪口を言った。そしてもう面白いことがなくなったので、家にはいってピアノの前にすわった。
ジャンナン氏とオリヴィエと二人きりになった。
「坊
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