もかかわらず花を摘み取った。朝から眼をつけてる薔薇《ばら》の花を素早くもぎ取り、それをもって庭の奥の亭《ちん》へ逃げ込んだ。そして酔うような強い香りの花の中に、歓《よろこ》ばしげに小さな鼻をつき込み、それに接吻《せっぷん》し、それを口に噛《か》み、その汁を吸った。それからその盗み花を隠し、二つの小さな乳房の間に襟《えり》元から押し込んだ、はだけてるシャツへ乳房がぽつりとふくらんでるのを、珍しげにうちながめた……。なお、禁ぜられてるも一つのえも言えぬ快楽は、靴《くつ》と靴下とをぬいで、小径《こみち》の冷やかな細かな砂の上、芝地のぬれた草の上、日影の冷たい石の上や日向《ひなた》の熱い石の上、森はずれを流れる小川の中などを、素足のまま歩き回り、足先や脛《すね》や膝《ひざ》などを、水や土や光にさらすことだった。樅《もみ》の木影に横たわっては、日光に透きとおってる手をながめ、細やかで豊かな腕のなめらかな肌《はだ》を、何心なく唇《くちびる》でなで回した。蔦《つた》の葉や樫《かし》の葉で、冠や頸環《くびわ》や長衣をこしらえた。青い薊《あざみ》の花や赤い伏牛花《へびのぼうず》や緑色の実のなってる樅の小枝などを、それに突きさした。まるで野蛮国の小さな女王みたいだった。そしてただ一人で、噴水のまわりを跳《は》ねた。両腕を広げてぐるぐる回り、ついには眼が回ってき、芝生《しばふ》のうちにうち倒れ、草の中に顔を埋め、幾分間も笑いこけて、みずから笑いやめることもできず、またなぜ笑うかもみずからわからなかった。
かくて二人の子供の日々は過ぎていった。たがいに少し遠ざかって相手を気にもかけなかった。――がときどきアントアネットは、通りがかりに弟へちょっと悪戯《いたずら》をしてみたくなり、ひとつかみの松葉を彼の鼻先へ投げつけ、落っことしてやるとおどかしながら彼が登ってる木を揺すり、あるいは、恐《こわ》がらすために突然彼へ飛びついて叫んだ。
「そら、そら……。」
彼女はときとすると、彼をからかいたくてたまらなくなった。母が呼んでると言って彼を木から降りさした。彼が降りて来るとそのあとに登って、もう動こうとしなかった。オリヴィエは不平で、言っつけてやるとおどかした。しかしアントアネットが長く木に登ってる心配はなかった。彼女は二、三分間もじっとしてることができなかった。枝の上からオリヴィエを笑ってやり
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