に身を起こし、口をうち開いて、こんども幻覚ではないかと気づかっていた。そして彼女が寝台の上に彼のそばへ腰をおろし、彼を両腕に抱きしめ、彼は彼女の胸に寄りすがり、唇《くちびる》の下に彼女のやさしい頬《ほお》を感じ、手の中に彼女の夜旅に冷えた手を感じ、最後にそれはまさしくなつかしい姉であることを確かめ得たとき、彼は泣き出した。泣くよりほかにしかたがなかった。今でもなおやはり、子供のおりの「泣きむし」のままだった。姉がまた逃げ出しはしないかと恐れて、しっかと胸に抱きしめた。彼らは二人ともいかに変わったことだろう! いかに悲しい顔つきをしてることだろう!……それはともあれ、ふたたびいっしょになったのだ! 病室も学校も薄暗い日も、すべてふたたび光り輝いてきた。二人たがいに抱き合って、もう離れようとしなかった。彼女が何にも言わない先に、彼は彼女にもう出発しないと誓わした。しかし誓わせるには及ばないことだった。彼女はもう出発する気はなかった。彼らはたがいに離れているとあまりに不幸だった。母親の考えは道理だった。何事も別離よりはましである。困窮も、死も、ただいっしょにいさえすれば……。
彼らは住居を借りることを急いだ。きたなくはあったが以前の住居をまた借りたかった。しかしそれはもうふさがっていた。そして新たに借りた住居は、やはり中庭に面していた。そして壁の上から、小さなアカシアの木の梢《こずえ》が見えていた。自分らと同じく都会の舗石の中にとらわれてる野の友にたいする心地で、彼らはすぐにその木へ愛着の念をいだいた。オリヴィエは間もなく健康を、もしくは健康と言われてきたところのもの――(というのは、彼において健康とされていたものも、もっと丈夫な人においては病気だったかもしれない)――それを回復した。アントアネットはドイツのつらい生活のために、多少の金を手に入れていた。それにドイツのある書物の翻訳を出版屋に引き取ってもらって、なお幾何《いくばく》かの金が手にはいることになった。で物質上の心配はしばし除かれていた。そして学年の末にオリヴィエが入学できさえしたら、万事都合よくいくはずだった。――がもし入学できなかったら?
彼らが共同生活の楽しみにふたたび馴《な》れだすや否や、試験のことがしきりに気にかかってきた。彼らはそれをたがいに避けて話さなかった。しかしどんなにつとめても、やはりその
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