散歩をくりかえさないようにアントアネットへ願った。アントアネットもしばらくはもうその気が起こらなかった。けれどもやがて彼女は、その散歩をオリヴィエよりもいっそう不快がってる癖にまた主張しだした。弟の健康にはそれが必要だと彼女は信じていた。弟を強《し》いてまた散歩させた。がこんどもやはり愉快ではなかった。オリヴィエは苦々《にがにが》しげに彼女を責めた。それからもう彼らは、息苦しい都会の中に閉じこもった。そしてその牢獄《ろうごく》みたいな中庭から、悲しげに田野をしのんでいた。

 最後の学年だった。師範学校の入学試験も終わりかけた。ようやくこぎつけてきたのだ。アントアネットはたいへん疲れた気がした。彼女は成功を当てにしていた。弟は万事運よくいっていた。中学校では優等な志願者の一人だと見なされていた。いかなる事柄にも容易になずまない不規律な精神を除いては、その勉強と知力とは教師たちからこぞって賞賛されていた。しかし身に担《にな》ってる責任のためにオリヴィエはひどく圧倒されて、試験が近づくにつれて能力を失っていった。極度の疲労、失敗の恐れ、病的な臆病《おくびょう》は、前もって彼を麻痺《まひ》させてしまった。公衆の中で試験官の前に出ることを考えただけで、震えおののいた。彼はいつも自分の臆病を苦しんでいた。教室では顔を真赤《まっか》にし、口をきかなければならないときには喉《のど》がつまった。最初のうちは名を呼ばれて返辞をするのもようやくのことだった。今に尋ねかけられるとわかってるときよりも、不意の問いに答えるほうがずっと容易だった。前からわかってると病的になった。頭がたえず働きつづけて、これから起こる事柄を細かく思い浮かべた。待てば待つほど気にかかった。どの試験も少なくとも二度は受けたと言っていいほどだった。前の晩に夢の中で試験を受けて、それに全精力を費やしてしまった。で実際の試験にはもう精力がなくなっていた。
 しかし彼は恐ろしい口述試験まではゆけなかった。晩にその試験のことを考えると、冷たい汗が流れた。筆記試験で、平素なら熱中できるような哲学の問題について、六時間に二ページも書けなかった。最初のうちは、頭が空《から》っぽになって、何一つ考えられなかった。真黒な壁にぶつかってつぶされかかってるかのようだった。それから、試験が終わる一時間ばかり前に、その壁が割れて、割れ目から数
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