りよく書けている。」
 激しい非難の方がクリストフにはもっと癪《しゃく》にさわらなかったかもしれない。
「そんなことを言ってもらう必要はありません。」と彼は激昂《げっこう》して言った。
「それでも、」とヘヒトは言った、「この曲を見せる以上は、私の考えを聞くためではないですか。」
「いやちっとも。」
「そんなら、」とヘヒトはむっとして言った、「あなたが何を求めに来たのか私にはわからない。」
「僕は仕事を求めに来たので、他のことは求めません。」
「先刻言った仕事以外には、当分やっていただきたいこともありません。あの仕事にしても、たしかにお頼みするかどうかわからない。お頼みするかもしれないと言っただけです。」
「他に方法はないのですか、僕のような音楽家を使うのに。」
「あなたのような音楽家ですって?」とヘヒトは侮辱的な皮肉の調子で言った。「少なくともあなたに劣らないほどのりっぱな音楽家で、そういう仕事を体面にかかわると思わなかった人がいくらもあります。いちいち名を指《さ》してもいいですが、今パリーで名を知られてるある人たちは、かえってそれを私に感謝していました。」
「それは彼らが卑劣だからだ
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