彼に感じさせたので、――また、家畜の群れのごときその群集にたいして、その汚れたる雰囲気《ふんいき》にたいして、その悪《にく》むべき精神状態にたいして、彼が一時間以来押えようとつとめていた嫌悪の情が、非常な激しさで破裂してきたので、彼は息がつけなくなった。彼は歔欷《きょき》の発作に襲われた。通行人らは、悲しみに顔をひきつらしてるこの大きな青年を、驚いてながめていった。彼は涙が頬《ほお》に流れても、拭《ぬぐ》おうともせずに歩きつづけた。人々はちょっと立ち止まって彼を見送った。彼がもし、敵意あるように思われるその群集の魂の中を、読み取ることができるのであったら、一つの親しい同情の念を――パリー人特有の皮肉が多少交ってはいたろうけれど――ある人々のうちにおそらく見出し得たであろう。しかし彼はもう何にも見ていなかった。涙のために眼がくらんでいた。
彼はある広場の大きな泉のそばに出た。彼はその中に手をつけ顔を浸した。一人の新聞売りの小僧が嘲弄《ちょうろう》的ではあるが悪意はない気持で、彼の仕業《しわざ》を不思議そうにながめていた。そしてクリストフが落としてる帽子を拾ってくれた。水の凍るような冷た
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