事柄を、強暴なる性質のためにその醜事がさらに嫌悪《けんお》すべきものとなっている、ドイツ帝国の選良階級の恐るべき腐敗を、クリストフの説にりっぱに対向せしめ得るはずであった。しかしシルヴァン・コーンはそれを利用しようとは思わなかった。彼はパリーの風俗に平気であるごとく、ベルリンの風俗にも平気であった。「各民衆にはそれぞれの風習があるものだ、」と彼は皮肉な考え方をして、周囲の社会の風習を自然なものだと思っていた。それを見てクリストフは、それらの風習は民族本来の性質であるとまで考えた。ゆえに彼は同国人らと同じように、ヨーロッパの精神的貴族社会を呑噬《どんぜい》しつつある腐食のうちに、フランスの芸術に固有な悪徳を、ラテン諸民族の欠点を、見て取らずにはいられなかった。
パリーの文学とのこの初めの接触は、彼には心苦しいものだった。後にその心苦しさを忘れるまでには、多少の時間がかかった。とは言えそれらの著作家の一人が、「基礎的娯楽の趣味」と高尚な名前をつけてるもの、それにばかり関係してるのではないような作品も、ないではなかった。しかしその最もりっぱな最もよい作品は、クリストフの眼には触れなかった。
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