ころが最近になって、政治家らと知識階級の最下級者らとの間に、多少の接近が生じてき、やがて間もなく同盟が結ばれた。思想の絶対支配権を僭有《せんゆう》する新しい一つの力が、舞台に現われてきた。それは自由思想家らであった。彼らのうちに専制政治の完全な一機関を見出したも一つの力と、彼らは結託した。彼らは教会を破壊するよりもむしろ、それに取って代わろうとした。そして実際彼らは、自由思想という一つの教会を作り上げた。特殊な教理問答、儀式、洗礼、最初の聖体拝受、結婚、地方のまた一国の教議会、ならびにローマの万国的教議会、などをもっていた。「自由に思考する」ために群をなして団結しなければならない、それら無数の憐《あわ》れな愚人どもは、実に笑止の至りだった。実際のところ、彼らの思想の自由なるものは、他人の思想の自由を理性の名において禁ずることにあるのだった。カトリック教徒らが聖母を信ずると同じように彼らは理性を信じていた。この両者の人々はともに、理性もしくは聖母というものは、それ自身では何物でもなく源は他にあることを、少しも気づかずにいた。そして、カトリック教会がその僧侶《そうりょ》の軍隊や修道会を備えて、ひそかに国民の血管中にはいり込んで病毒を伝播《でんぱ》させ、反対者のあらゆる活力を絶滅さしてるのと同じく、反カトリックのこの教会の方でも、秘密結社員らを備えていて、その本部たるグラン・トリアンにおいては、敬虔《けいけん》なる密告者らがフランスの四方から毎日送ってくる秘密通信を、残らず帳簿に書き取っていた。共和政府では、軍隊や大学や国家のあらゆる肢体《したい》を実は脅かしてる、それら乞食《こじき》坊主や理性の狂信者らの密偵を、内々奨励していた。そして、彼らが国家に仕えるふりをしながら、次第に国家に取って代わらんと目ざしてることを、少しも気づかなかったし、また国家が徐々に、パラゲーのジェズイット派のそれとほとんど選ぶところのない、無信仰的な神権政治へ進みつつあることを、少しも気づかなかった。
クリストフはルーサンの家で、それら俗衆的使徒の数名に会った。彼らは皆いずれ劣らぬ拝物教徒であった。当時彼らは、法廷からキリストを追い出したことを歓喜していた。数個の木片を破壊したことで、すでに宗教そのものを破壊したと信じていた。カトリック教徒から奪ってきたジャンヌ・ダルクやその聖母の旗を、独占してる者らもあった。この新しい教会の長老の一人、他の教会のフランス人らと戦っていた一人の将軍は、ヴェルキンゲトリックスを称揚して反僧侶的な演説を試みた。自由思想派が銅像をささげたこのガリアの首領が、平民の子であったことを祝し、ローマに(ローマ教会に)対抗したフランスの第一人者だったことを祝した。ある海軍大臣は、艦隊を浄化しカトリック派を憤慨させるため、戦闘艦にエルネスト[#「エルネスト」に傍点]・ルナン[#「ルナン」に傍点]という名をつけた。また他の自由精神の人々は、芸術を純化せんとつとめていた。彼らは十七世紀の古典文学を抹殺《まっさつ》し、また神の名でラ・フォンテーヌの物語を汚すことを許さなかった。昔の音楽についても同じくそれを許さなかった。クリストフが実際聞いたところによると、ある過激派の老人――(年を取って過激なのは馬鹿の骨頂だ[#「年を取って過激なのは馬鹿の骨頂だ」に傍点]、とゲーテは言った)――は、ベートーヴェンの宗教的な歌曲[#「歌曲」に傍点]が通俗音楽会のうちに加えられてることを、ひどく憤慨していた。彼はその歌詞を変えよと要求していた。
なおいっそう過激な他の人々は、あらゆる宗教的音楽とそれを教える学校とを、そっくり廃止してしまうことを望んでいた。このベネチアでアテネ人だと見なされてるある美術学校の校長は、やはり音楽家らに音楽を教える必要があることを、つとめて説明したけれど甲斐《かい》がなかった。彼は説いた。「兵営に送られた一兵卒は、銃の操法や射撃法を徐々に教えられる。年若い作曲家についても同様である。頭には無数の観念が湧《わ》いているが、その分類はまだ行なわれてはいない。」そして彼は、自分の勇気にみずから恐れて、一句ごとにくり返した。「私は老いたる自由思想家である……私は老いたる共和主義者である……。」それから彼は大胆に次のことを宣言した。「ペルゴレージの作が歌劇であるかミサ曲であるかを知るのは、重要なことではない。それが人間的な芸術の作品であるかどうかを知るのが、肝腎《かんじん》である。」――しかし相手の一徹な論理は、この「老自由思想家」へ、「老共和主義者」へ、答え返した。「二種の音楽があるのだ、すなわち教会堂で歌われる音楽と、他の場所で歌われる音楽と。」第一のものは理性と国家との敵であった。そして国家的理性はそれを廃止すべきであった。
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