すめ》の役をしてる女優が「腐ったソースのような」鈍い声を出してると言ったり、花形女優が「ランプの笠《かさ》のような」着物をつけてると言ったりした。――あるいはまた、夜会へ出かけた。その楽しみは、自分の姿を人に見せることだった。もちろんきれいな女にとってである。――(そのきれいさも日によって異なっていた。パリーの美人くらい変わりやすいものはない。)――そして服装や身体の欠点など、すべて人々にたいする批評の種を、新たに仕入れた。話の方は少しもやらなかった。――遅くなって家に帰った。なかなか寝られなかった。(最も眼が冴《さ》えてる時間だった。)テーブルのまわりにぐずついていた。書物を開いてみた。ある言葉や身振りを思い出して一人で笑った。退屈してきた。非常に味気なかった。眠ることができなかった。そして夜中に突然、絶望の発作に襲われるのだった。
クリストフは、時々数時間しかコレットに会っていなかったし、彼女の転身の二、三をしか見ることができなかったので、右のようなことを知るだけでもかなり困難だった。いったい彼女はいつが真面目《まじめ》なのか――あるいは、彼女はいつも真面目なのか――あるいは、彼女は決して真面目なことがないのか、それを彼は怪しんでいた。コレット自身もそれには答えることができなかったろう。遊惰な拘束された欲望にすぎない多くの若い娘と同じく、彼女も闇夜《やみよ》の中に生きていた。自分がいかなるものであるかをも知らなかった。なぜなら、自分の欲するところを知らなかったし、実際に行なってみないうちはそれを知ることができなかった。そして彼女は、周囲の人々の真似《まね》をしようとつとめ、彼らの道徳的標準にならおうとつとめながら、できるだけ多くの自由と少しの危険とをもって、自己流に行なってみるのだった。彼女は選択を急がなかった。すべてを利用するためにすべてをあやなしたがっていた。
しかしクリストフのような友を相手には、都合よくいかなかった。人が彼を捨てて、彼から尊敬されていない者らを取り、もしくは彼から軽蔑《けいべつ》されてる者らを取ることは、彼も許していた。しかし彼は彼らと同視されることを人に許さなかった。人はそれぞれ自分の趣味をもっている。しかし少なくとも、趣味は一つでなければいけない。
彼がことに我慢しかねたことは、彼から最も厭《いや》がられるようなくだらない青年らを、コレットが自分の周囲に集めて喜んでるらしいことだった。たまらない気取りやどもで、多くは金持ちでとかく閑散であるか、あるいは何かの官省の閑官の気に入りであった――いずれにしても同じことだった。皆物を書いていた――書いてると自称していた。それは第三共和政時代における一つの精神病であった。ことに虚栄的な怠惰の一形式であった――知的労働はあらゆる労働のうちで、最も点検しがたいものだったし、最も空威張《からいば》りのきくものだったから。彼らはその大なる労苦については、控え目ではあるがしかしもったいぶった言葉を、少しばかり口にするきりだった。自分の仕事の重大さをしみじみ感じてるがようであり、その重荷の下に苦しんでるがようだった。初めのうちクリストフは、彼らの作品や名前を全然知らないので少々困却した。そしてひそかに調べてみた。戯曲界の大立物だと彼らから言われている一人の男の書いた物を、彼はことに知りたかった。ところが、その大劇作家はただ一幕物を一つ作ったのみだと知って、彼はびっくりした。しかもその一幕物が、最近十年間にわたって彼らの雑誌の一つに発表された、一連の短編というよりむしろ一連の小品からでき上がった一つの長編小説を、さらに抜粋してきたものであった。他の者らの作も、同じような分量だった。二、三の一幕物、二、三の短編、二、三の詩だった。一つの論文で名高くなってる者もいた。「これから作るはずの」書物で有名になってる者もいた。彼らは大きな長い作品をいつも軽蔑《けいべつ》していた。文句中の言葉の布置を極端に重んじているらしかった。それでも、「思想」という言葉が彼らの話にはしばしば出て来た。しかし普通の意味とは異なってるらしかった。文体の些細《ささい》な事柄にその言葉をあてはめていた。とは言え、彼らのうちにも、偉大な思想家や偉大な諷刺《ふうし》家がいた。そういう連中は、物を書く時に、深遠巧妙な言葉を読者が見誤らないようにとイタリックになしていた。
彼らは皆自己崇拝者であった。それが彼らの有する唯一の崇拝だった。その崇拝を他人にも分かとうとしていた。あいにくなことには、他人も皆それをすでにそなえていた。彼らは話すにも、歩くにも、煙草《たばこ》を吹かすにも、新聞を読むにも、頭や眼を向けるにも、たがいに挨拶《あいさつ》し合うにも、たえず公衆を念頭に置いてやっていた。道化《どうけ》は青
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