ならざるを得なかった。ある音楽会の司会者は好奇心を起こして、日曜日の昼興行《マチネー》にその作を採用した。その幸運もクリストフにとっては一つの災難であった。作品は演奏された――そして失敗した。女歌手の味方は皆、無礼な音楽家を懲らしめてやろうと牒《しめ》し合わせていた。残余の聴衆は交響詩に退屈しきって、玄人《くろうと》筋の決議に雷同した。そのうえ運の悪いことには、クリストフは自分の技能を見せるため、ピアノと管弦楽とのための幻想曲《ファンタジヤ》を一つ、その音楽会で聞かせることを不用意にも承諾した。聴衆の不穏な気分は演奏者らをいたわりたい心から、ダヴィデ[#「ダヴィデ」に傍点]実演の間はある程度まで押えられていたが、作者自身と面を合わせる段になると――その演奏もまた大して正確ではなかったが――自由に発露された。クリストフは聴衆席の喧騒《けんそう》に気を腐らし、楽曲の途中で突然中止した。そして、にわかに静まり返った聴衆を不快な様子でながめながら、マルブルーの出征[#「マルブルーの出征」に傍点]をひいた――そして傲然《ごうぜん》と言った。
「諸君にはこれが適当です!」
そこで彼は立ち上がって出て行った。
大した騒ぎだった。人々は彼が聴衆を侮辱したと叫び、客席に来て謝罪すべきだと叫んだ。諸新聞は翌日、パリーのよき趣味によって罰せられた野卑なドイツ人を、いっしょになって筆誅《ひっちゅう》した。
その次には、ふたたびひっそりと静まり返ってしまった。クリストフはまたもや、敵意を含んだ他国の大都市の中で孤立した。今までになくひどい孤立だった。しかし彼はもはや気にしなかった。これが自分の運命である、生涯《しょうがい》このとおりだろう、と彼は信じ始めていた。
彼は知らなかった、偉大な魂は決して孤独でないことを、時の運によって友をもたないことがあるとしても、ついにはいつも友を作り出すものであることを、それは自分のうちに満ちてる愛を周囲に放射することを、また、自分は永久に孤立だと信じてる現在においても、彼は世の最も幸福な人々よりさらに多くの愛を他から受けていたことを。
ストゥヴァン家には十三、四歳の少女がいて、クリストフはこれにも、コレットと同時に稽古《けいこ》を授けていた。彼女はコレットの従妹《いとこ》で、グラチア・ブオンテンピという名前だった。金色の顔色をした少女で、頬骨《ほ
前へ
次へ
全194ページ中147ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング