そうの温情をそなえてるらしく、そしてとにかく彼よりはいっそうの節度をそなえてる、この穏和なていねいな男にたいして、大袈裟《おおげさ》な反感を隠すことができなかった。彼は議論を吹きかけた。その題目がいかにもつまらない時でも、議論はいつもクリストフのせいでにわかに辛辣《しんらつ》になってきて、聞いてる人々をびっくりさした。あたかもクリストフはあらゆる口実を設けて、リュシアン・レヴィー・クールにまっしぐらに突進したがってるかのようだった。でも決してやりこめることはできなかった。相手はいつも、自分の方が間違ってることがいかに明白な時にでも、うまく振る舞うのに巧妙をきわめていた。クリストフの世馴《よな》れないことをことに目だたせるような慇懃《いんぎん》さで、自分の身を護っていた。それにクリストフの方では、フランス語のしゃべり方がまずく、覚えたての隠語やまた下等な言葉まで交え、しかもそれらを多くの外国人のように不適当に使っていたので、レヴィー・クールの戦術を失敗に終わらせることは不可能だった。そしてその皮肉な穏和さにたいして猛然とぶつかっていった。人は皆クリストフの方が悪いと思った。なぜなら、彼がひそかに感じていたところのことを、だれも見て取り得なかったから。すなわちそれは、穏和の偽瞞《ぎまん》であった。一つの力に衝突してそれを切り捨てることができない時に、ひそかに暗黙のうちにそれを窒息させようとすることだった。彼はクリストフと同じく時日に期待をかける男だったので、別に急いではいなかった。クリストフの方は建設せんがためにであったが、彼の方は破壊せんがためにであった。クリストフをストゥヴァン家の客間から次第に遠ざけたように、クリストフからシルヴァン・コーンやグージャールを引き離すのは、むずかしいことではなかった。彼はクリストフの周囲を空虚にしていった。
 クリストフ自身でもそれを助長していた。彼はいずれの流派にも属しなかったし、なおよく言えばあらゆる流派の敵だったので、だれをも満足させなかった。彼はユダヤ人どもを好まなかった。しかし反ユダヤ主義者らをさらに好まなかった。悪いからというのではなく力強いからというので、この有力な小数党たるユダヤ人どもに反抗してる、大多数の者らの卑怯《ひきょう》さ、嫉妬《しっと》や怨恨《えんこん》の下劣な本能に訴えたやり方、それを彼はきらっていた。かく
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