頭《たいとう》してきた第四の階級は、屈服させるのにまだ困難ではなかった。頽廃《たいはい》したローマが野蛮人の群れを取り扱ったと同じように、頽廃したフランス共和政府はこの第四階級を取り扱っていた。ローマはもはや野蛮人らを国境外に掃蕩《そうとう》する力がなくて、彼らを自分のうちに合体させ、そして間もなく彼らは最上の番犬となってしまったのである。社会主義者だと自称してるブールジョア階級の代表者らも、労働階級の選良中の最も知力すぐれた人々を、隠密《おんみつ》に引きつけ併合していた。彼らは無産党からその首領らを切り放し、その新しい血を自分のうちに注入し、その代わりには、ブールジョア的観念を彼らにつめこんでいた。

 ブールジョア階級が試みてる民衆併合の企てのうちで、当時最も不思議な実例の一つは、通俗大学であった。それは、人の知り得るあらゆる事物[#「人の知り得るあらゆる事物」に傍点]の知識を雑然と並べた、小さな勧工場だった。そこで教えることになってる科目は、綱領の示すとおり、「物理学や生物学や社会学などの知識の各部門、すなわち、天文学、宇宙学、人類学、人種学、生理学、心理学、精神病学、地理学、言語学、美学、論理学、その他」であった。しかし、ピコ・デラ・ミランドラの頭を割ってぶちまけたとて、それがなんの役にたつものか!
 もとより、通俗大学のあるもののうちには、その起原においては、誠実な理想主義、真や美や精神生活やを万人に分かとうとする要求が、存在していた。それはりっぱな事柄だった。一日の激しい労働を終わって、狭い息苦しい講堂にやって来、疲労よりもさらに強い知識欲をいだいてる、それら労働者らの集まりは、感嘆すべき光景を呈していた。しかしながら、いかに人々はそれら憐《あわ》れな者たちを濫用したことだろう! 知力すぐれ慈心ある少数の真の使徒に比して、巧者だというよりもむしろりっぱな意向をもった少数の善良な心の人に比して、愚者、饒舌《じょうぜつ》家、陰謀家、読者のない著作家、聴衆のない弁舌家、教師、牧師、巧弁家、ピアニスト、批評家、すべて自分の製作物で民衆をおぼらそうとする徒輩が、いかに多かったことだろう。彼らは各自に自分の商品を並べたててばかりいた。最も客を多く呼んだ者は、いうまでもなく、香具師《やし》、哲学的|駄弁《だべん》家、天国的な社会を匂《にお》わして一般的観念を盛んにこね
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