る現場を押えて、リュシアン・レヴィー・クールと自分とどちらかを選べと、手詰めの談判をした。彼女はその問題を避けようと試みた。そしてしまいには、好きな者はだれでも友だちにしておく権利があると主張した。彼女の言うところはまったく正当だった。クリストフは自分の方が滑稽《こっけい》だと気づいた。しかし自分がかく厳格な態度を取るのは利己心からではないということも、またよく知っていた。彼はコレットにたいして誠実な愛情をいだいていたのである。たとい彼女の意志に逆らおうとも彼女を救いたかった。それで彼はへまに言い張った。彼女は返辞を拒んだ。彼は言った。
「コレットさん、では私たちがもう友だちでなくなることを望むんですか。」
彼女は言った。
「いいえ、ちっとも。あなたが友だちでなくなってしまわれると、私はたいへん悲しいんですもの。」
「しかしあなたは私どもの友情に、少しの犠牲をも払いたがらないじゃありませんか。」
「犠牲ですって! まあ馬鹿なことをおっしゃるのね。」と彼女は言った。「いつでも何かのために何かを犠牲にしなければならないという訳があるでしょうか? それはキリスト教的な馬鹿げた考えですわ。つまりあなたは、知らず知らず古臭いお坊さんになっていらっしゃるのね。」
「そうかもしれません。」と彼は言った。「私にとっては、これかあれかです。善と悪との間に、私は空間を認めません、たとい髪の毛一筋ほども。」
「ええ、知っています。」と彼女は言った。「だから私はあなたが好きです。ほんとに、たいへん好きですわ。けれど……。」
「けれど、も一人の方も同様に好きだ、というんでしょう。」
彼女は笑った。そして、いちばんかわいい眼つきをしいちばんやさしい声をして言った。
「お友だちでいてくださいね!」
彼はまた負けかかった。しかしそこに、リュシアン・レヴィー・クールがはいって来た。そして同じかわいい眼つきと同じやさしい声とが、彼を迎えるのに使われた。クリストフは口をつぐんで、コレットが芝居をうってるのをながめた。それから、交誼《こうぎ》を絶とうと決心して立ち去った。心が悲しかった。しかし、いつも執着して罠《わな》にかかってばかりいるのは、いかにも愚かなことだった。
彼は家に帰って、機械的に書物を片付けながら、退屈なまま聖書を開いて読んだ。
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……主《しゅ》は宣《のた
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