る者はわが文明を滅ぼそうとしかけている。しかし俺は彼らのうちに、われわれの思想行為の宝の一つたるべき者らがあることを、知らないではない。この民族のうちには、まだ偉大なものがあることを、俺は知っている。彼らの多くがもっている、献身の力、傲慢《ごうまん》なる冷静、最善にたいする愛と欲求、不撓《ふとう》の精力、世に隠れたる執拗《しつよう》な労苦、それらをことごとく俺は知っている。彼らのうちに一つの神があることを、俺は知っている。それゆえに俺は、その神を否定した奴らを、堕落的な成功と卑しい幸福とのために、彼ら民衆の運動を裏切る奴らを、憎んでいるのだ。そういう奴らを攻撃するのは、奴らに対抗して彼ら民衆の味方をすることになるのだ。腐敗したフランス人どもを攻撃することによって、フランスを保護するのと、ちょうど同じことだ。
予 おい、お前は自分と無関係なことに干渉してるというものだ。スガナレルの細君のことを思い出すがいい。やたらに打たれるようなことばかりしたがったじゃないか。「木と指との間に……。」イスラエルの問題は、われわれに関したことじゃない。そしてフランスの問題の方は、フランスはマルティーヌのようなもので、やりこめられようと平気だ。しかしやりこめられたと人に言われることを許さない。
クリストフ それでも、真実を言ってきかせる必要がある、真実を愛すれば愛するほどなおさらだ。俺でなけりゃ、だれが真実を言う者があるか。――お前も駄目《だめ》だ。お前たちは皆、社会的関係、礼儀、配慮、などで相互に束縛されている。ところが俺は、なんらの束縛もないし、お前たちの仲間じゃない。お前たちの徒党のいずれにも属したことはないし、議論のいずれにも加わったことはない。お前たちと合唱しなければならない訳もなければ、お前たちと沈黙を共にしなければならない訳もない。
予 お前は外国人だ。
クリストフ そうだ、ドイツの一音楽家には、お前たちを批判する権利もなければ、お前たちを理解することもできないと、人は言うかもしれない。――よろしい、俺の方が間違ってるとしてみよう。しかし少なくとも、俺とともにお前も知っている外国のある偉い人々が――過去および現在の最も偉い人々が――お前たちのことをどう考えているか、それを俺は言ってやろう。たとい彼らが間違ってるとしても、彼らの思想は知るだけの価値がある。そしてお前たちに役だ
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