げに、パリー婦人を観察した。彼は多くの外国人と同じく、自分が出会った二、三の類型によって得た仮借《かしゃく》なき意見を、フランス婦人全般に押し広げてしまった。その類型というのは、年若な婦人で、大して背が高くなく、さほど清楚《せいそ》でもなく、しなやかな身体、染めた髪の毛、愛嬌ある顔の上にある、身体不相応に大きな帽子。はっきりした顔だち、少し脹《ふく》れっ気味の肉。どれもみな、かなり格好はよいが、たいてい卑俗で、特質のない小さな鼻。なんら深い生命はないがいつも活発であって、できるだけ輝かせ、できるだけ大きく見せようとつとめてる眼。しまりのよいきっぱりした口。ぽってりした頤《あご》。恋愛事件にばかり没頭しながらも、決して世間や家庭への注意をも怠らないそれら華奢《きゃしゃ》な婦人らの、物質的な性質を示してる顔の下部。きれいではあるが、民族的な根は少しもない。それら社交婦人のほとんどすべてには、一種の臭みが感ぜられた。腐敗してる中流婦人の臭みであり、もしくはそう見せたがってる中流婦人の臭みであって、その階級特有の伝統が見えていた、慎重、倹約、冷静、実際的能力、利己主義など。貧弱なる生活。官能の要求よりもむしろ頭の好奇心から多く発した、快楽の欲望。平凡なしかも断固たる意志。きわめてりっぱに衣服をまとい、自動的な細かな身振りをしていた。手の甲や掌《たなごころ》で、髪や櫛《くし》をこまかにたたきなでていた。そしていつも、大鏡の近くででもまた遠くででも、自分の姿が映るようなふうに――そして他人をも監視できるようなふうに――すわるのであった。そのうえになお、食事の時でもまたはお茶の時でも、よくみがかれて光ってる匙《さじ》やナイフや銀の珈琲皿《コーヒーざら》などに、自分の顔がちらと映るのを見落とさないで、何よりもその方を多く気にかけていた。食卓ではきびしい摂生法を守《まも》っていた。理想的な白粉《おしろい》ののりぐあいを害するかもしれないような食物は、いっさい口にしないで、水ばかり飲んでいた。
 クリストフが出入する周囲には、ユダヤ婦人が割合に多かった。彼はユーディット・マンハイムに出会って以来、ユダヤ婦人にあまり空望をかけはしなかったが、それでも、いつも彼女らにひきつけられた。シルヴァン・コーンは彼を、イスラエル系統の二、三の客間《サロン》へ紹介していた。そこで彼は、才知を好むこの民
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