にそうだった。マンハイムはいつも自分の逆説をみずから面白がり、弁難から弁難へわたって、ついには自分で内心おかしいほどの、途方もない駄弁《だべん》にふけってばかりいたので、人から真面目《まじめ》に聞いてもらうようなことは滅多になかった。ところが今クリストフが、自分の詭弁《きべん》を論議せんとしまたはそれを理解せんとして、いたく骨折ってるのを見ると、すっかりうれしくなった。そして冷笑しながらも、クリストフから重視されてるのを感謝した。彼はクリストフを滑稽《こっけい》なまた愛すべき男だと思った。
二人はきわめて親しい間柄になって別れた。そして三時間後に、芝居の試演の時、管弦楽団の席に開いてる小さな扉《とびら》から、マンハイムの※[#「口+喜」、第3水準1−15−18]々《きき》とした引きゆがめられた顔が現われて、ひそかに合図をしてるのを見て、クリストフは多少びっくりした。試演がすむと、クリストフはその方へ行った。マンハイムは親しげに彼の腕をとらえた。
「君、少し隙《ひま》があるだろうね。……まあ聞きたまえ。僕はちょっと思いついたことがある。多分君はばかなことだと思うかもしれないが……。実は
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