自分の演奏しているものが、周囲の人々の胸底に反響を見出してるかどうかを、知り得させるものである。クリストフは背後の桟敷《さじき》から起こる倦怠《けんたい》の霧に凍えながら、なおつづけて指揮棒を振り、みずから興奮していった。
ついに序曲は終わった。聴衆は拍手した。丁重に冷やかに拍手して、それから静まり返った。クリストフはむしろののしられる方を好んだろう。……ただ一つの口笛でも! 何か生き生きとした兆《しるし》、少なくとも作品にたいする反対の兆でも!……が何もなかった。――彼は聴衆をながめた。聴衆はたがいに見合わしていた。たがいの眼の中に意見を捜し合っていた。しかし彼らはそれを見出し得ないで、また無関心な態度に返った。
音楽はふたたび始まった。こんど交響曲《シンフォニー》の順であった。――クリストフは終わりまでつづけるのに困難を覚えた。幾度も彼は指揮棒を捨てて逃げ出したくなった。聴衆の無感覚に引き込まれて、ついに何を指揮してるかもわからなくなり、底知れぬ倦怠《けんたい》のうちに陥る心地をはっきり感じた。ある楽節で彼が期待していた嘲笑《ちょうしょう》の囁きさえなかった。聴衆は番組《プログ
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