らそれを考えて微笑していた。要するに、聾者ででもなければ作品に力がこもってることを否み得まい――愛すべきものかあるいはそうでないかはどうでもいい、とにかく力があることを。……愛すべきもの、愛すべきものだって!……ただ力、それで十分だ。力よ、ライン河のようにすべてを運び去れ!……
彼は第一の蹉跌《さてつ》に出会った。大公爵が来られなかった。貴賓席はただ付随の輩ばかりで、数人の貴顕婦人で占められた。クリストフは憤懣《ふんまん》を感じた。彼は考えた。「大公爵の馬鹿は俺《おれ》に不平なんだ。俺の作品をどう考えていいかわからないんだ。間違いをしやすまいかと恐れてるんだ。」彼は肩をそびやかして、そんなつまらないことは意に介しないというようなふうをした。ところが他の人々はそれによく注意を留めた。大公爵の欠席は、彼にたいする最初の見せしめであって、彼の未来にたいする威嚇《いかく》であった。
公衆は、主人たる大公爵よりいっそう多くの熱心を示しはしなかった。客席の三分の一はあいていた。クリストフは子供のおりの自分の音楽会がいつも満員だったことを、苦々しく考え出さざるを得なかった。もし彼がもっと経験を積
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