―翌日の公演では――と、心をきめていた。
当日になった。クリストフはなんらの不安をもいだいてはいなかった。自分の音楽であまり頭がいっぱいになっていたので、それを批判することができなかった。ある部分は人の笑いを招くかもしれないと思っていた。しかしそれがなんだ! 笑いを招くの危険を冒さなければ、偉大なものは書けない。事物の底に徴するためには、世間体や、礼儀や、遠慮や、人の心を窒息せしむる社会的虚飾などを、あえて蔑視《べっし》しなければいけない。もしだれの気にも逆《さか》らうまいと欲するならば、生涯の間、凡庸者どもが同化し得るような凡庸《ぼんよう》な真実だけを、凡庸者どもに与えることで満足するがいい。人生の此方《こなた》にとどまっているがいい。しかしそういう配慮を足下に踏みにじる時に初めて、人は偉大となるのである。クリストフはそれを踏み越えて進んでいった。人々からはまさしく悪口されるかもしれなかった。彼は人々を無関心にはさせないと自信していた。多少無謀な某々のページを開くと、知り合いのたれ彼がどんな顔つきをするだろうかと、彼は面白がっていた。彼は辛辣《しんらつ》な批評を予期していた。前か
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