た。それを軽蔑《けいべつ》してはいたが、やはりそれに打ち負けていた。
かくて、民族の本能と天分の本能からたがいに引っ張られ、身内に食い込まれて振り払うことのできない寄生的な過去の重荷に圧せられて、彼はつまずきながら進んでいった。そしてみずから排斥していたものに思いのほか接近していた。当時の彼の作品はことごとく、真実と誇張との、明敏な活力とのぼせ上がった愚蒙《ぐもう》との、混合であった。彼の性格が、おのれの運動を拘束する故人の性格の外被をつき破ることができるのは、ごく時々にしかすぎなかった。
彼はただ一人であった。彼を助けて泥濘《でいねい》から引き出してくれる案内者はいなかった。彼は泥濘から外に出たと思ってる時に、ますますそれに落ち込んでいた。不運な詩作に時間と力とを濫費しながら、摸索しつつ進んでいった。いかなる経験をもなめつくした。そしてかかる創作的|煩悶《はんもん》の混乱中にあって、彼は自分が創作するすべてのもののうちで、いずれが最も価値あるかを知らなかった。無法な計画の中で、哲学的主張と奇怪な推測とをもった交響楽詩の中で、途方にくれた。しかしそれに長くかかり合うには、彼の精神は
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