いする擬人法であった、「汝[#「汝」に傍点]、尚《とうと》き杯よ[#「杯よ」に傍点]……」と。信仰は、不意の波涛《はとう》のように魂から迸《ほとばし》り出るべきものでありながら、一つのこしらえ物となり、一つの通用品となっていた。愛国の歌は、程よく鳴いてる従順な羊の群れのためにこしらえられたものであった……。――さあ怒号してみないか?……なんだ、なお嘘を言いつづけるのか……理想化[#「理想化」に傍点]しつづけるのか――陶酔においても、殺害においても、狂愚においてまでも!……
 クリストフはついに理想主義を憎むにいたった。そういう虚偽よりも磊落《らいらく》な粗暴の方がまだ好ましかった。――根本においては、彼はだれよりも理想主義者であって、むしろ好ましいと思ったそれら粗暴な現実主義者こそ、彼の最も忌むべき敵であるはずだった。
 彼は自分の熱情に眼を眩《くら》まされていた。霧のために、貧血症に罹《かか》ってる虚偽のために、「太陽のない幽鬼的観念」のために、凍らされたような気がしていた。一身の力をしぼって太陽を翹望《ぎょうぼう》していた。周囲の偽善にたいする、あるいは彼が偽善と名づけてるものにた
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