ましく意中を吐露せんとする、態《わざ》とらしいつまらない性癖であった。言うべきこともないのに常に口をきいていた。その饒舌はいつまでもやまないのか?――これ、沼の蛙《かえる》ども黙らないか!
 クリストフがさらにまざまざと虚偽を感じたのは、ことに恋愛の表現中にであった。なぜなら、彼はこの問題ではいっそうよくそれを事実に比較することができたから。涙っぽい几帳面《きちょうめん》な恋歌の因襲は、男の欲望にも女の心にも、なんら一致してるものがなかった。けれどもそれを書いた人々は、少なくとも一生に一度は恋をしたことがあるに違いなかった。しからば彼らはそういうふうに恋したのであったろうか? 否、否。彼らは嘘《うそ》をつき、例の通り嘘をつき、自分自身に向かっても嘘をついたのだ。彼らは自分を理想化せんと欲したのである。理想化するというのは、人生を正視することを恐れ、事物をあるがままに見るを得ないことである。――いたる所に、同じ臆病《おくびょう》さ、男らしい率直さの同じような欠乏。いたる所に、愛国心の中にも、飲酒の中にも、宗教の中にも、冷やかな同じ心酔、浮華な芝居じみた同じ厳粛さ。飲酒の歌は皆、酒や杯にた
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