ふうにくり返されこね回され配合されてる、簡単な律動《リズム》が、装飾的意匠があった。それらの対照的な冗複な構造――奏鳴曲《ソナタ》や交響曲《シンフォニー》――は、広大精巧な設計や端整さなどの美に当時あまり敏感でなかったクリストフを、憤激させるのであった。音楽家の仕事というよりむしろ左官屋の仕事のように彼には思われた。
 彼はまた浪漫派《ロマンチック》作家らにたいしても、同じく峻厳《しゅんげん》だった。不思議なことには、最も自由であり、最も自発的であり、最も建築的でないと、自称していた音楽家ほど――たとえばシューマンのように、無数の小曲のうちに、自分の全生命を一滴ずつ注ぎ込んだ人々ほど、彼をいらだたせるものはなかった。みずから脱却しようと誓った自分の少壮な魂やあらゆる稚気を、彼らのうちにもやはり見出しただけに、なおさら憤激した。もとより、誠実なシューマンは虚構をもって難ぜられるはずはなかった。彼が言ってることはほとんどすべて、ほんとうに感じたことばかりだった。しかし、ちょうどシューマンの例によってクリストフが理解するにいたったことは、ドイツ芸術の最も悪い虚構は、その芸術家らが少しも実感し
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